なぜ日本企業が次々とサイバー攻撃を受ける?被害の仕組みとAI時代のセキュリティ
●結論
日本企業へのサイバー攻撃が相次ぐ背景には、システムの脆弱性や認証情報の悪用、取引先を経由した侵入など、複数の要因があります。生成AIは攻撃と防御の両方に影響しますが、被害を防ぐには、技術的な対策と人による適切な判断を組み合わせることが重要です。コピー
●この記事でわかること
– 日本企業がサイバー攻撃を受ける主な原因と、被害が広がる仕組み
– ランサムウェア、不正アクセス、フィッシングの違い
– 生成AIがサイバー攻撃とセキュリティ対策に与える影響
– 個人情報の漏えいが生活に及ぼすリスクと、個人・企業ができる対策
– AI時代に求められるセキュリティ技術と人間の役割
なぜ日本企業はサイバー攻撃を受ける?AI時代の被害と対策

企業のシステムが突然使えなくなる。顧客の個人情報が漏えいする。普段利用しているサービスが停止し、商品の注文や配送にまで影響が出る。
近年、こうしたサイバー攻撃による被害がニュースで取り上げられています。2026年10月には、国内の複数の組織で不正アクセスによる情報漏えいが相次いだことを受け、情報処理推進機構(IPA)やJPCERT/CCが注意喚起を公表しました。
なぜ、日本企業はサイバー攻撃を受けるのでしょうか。AIの進化によって、攻撃はさらに巧妙になっているのでしょうか。
その背景には、ソフトウェアの脆弱性やアカウント管理の不備、取引先を経由した侵入など、複数の要因があります。生成AIも攻撃を効率化する可能性がある一方、防御に活用されている技術です。
この記事では、サイバー攻撃の仕組みや被害が起きる理由、AIによる変化、個人や企業ができる対策を解説します。
日本企業へのサイバー攻撃で何が起きているのか
サイバー攻撃とは、コンピューターやネットワーク、Webサービスなどに不正な操作を行い、情報を盗んだり、システムを停止させたりする行為です。金銭の獲得、情報の窃取、業務の妨害など、攻撃の目的はさまざまです。
2026年10月9日、IPAは、国内の金融機関や通信事業者などで不正アクセスによる情報漏えいの公表が相次いでいることを受け、注意喚起を行いました。JPCERT/CCも、国内組織への不正アクセスに関する注意喚起を10月8日に公表し、翌9日に情報を更新しています。
企業のシステムが侵害されると、保存されていた情報が盗まれるだけでなく、サービスの停止や業務の遅延につながることもあります。被害を受けた企業と取引する会社や、そのサービスを利用する一般の人にも影響が及ぶ可能性があります。
ただし、複数の企業で被害が発生しているからといって、すべてが同じ攻撃者による一斉攻撃とは限りません。JPCERT/CCも、確認できている技術情報は限られており、個々の事案で同じ手法が使われたと断定できるわけではないと説明しています。
まずは、代表的な攻撃の種類を見ていきましょう。
ランサムウェア:企業の業務を止める攻撃
ランサムウェアは、コンピューターやサーバー内のデータを暗号化するなどして利用できない状態にし、元に戻すことと引き換えに金銭を要求するマルウェアです。
データを暗号化するだけでなく、事前に情報を盗み出し、公開すると脅す手口もあります。これは「二重恐喝」と呼ばれます。
例えば、受注システムが被害に遭うと、注文の確認や商品の出荷ができなくなる可能性があります。バックアップが不十分な場合、復旧に長い時間がかかることもあります。
不正アクセス:システムに侵入して情報を盗む攻撃
不正アクセスとは、許可されていない人がコンピューターやサービスにアクセスしたり、本来認められていない操作を行ったりすることです。
攻撃者は、ソフトウェアの脆弱性を悪用したり、盗み出したIDやパスワードを使ったりしてシステムへの侵入を試みます。侵入後に顧客情報や業務データを取得されると、個人情報の漏えいや企業秘密の流出につながります。
システムが停止していなくても、情報を盗まれること自体が重大な被害になります。
フィッシング:人をだまして情報を入力させる攻撃
フィッシングは、銀行や通販サイト、宅配業者などを装ったメールやSMSを送り、偽のWebサイトに誘導して、IDやパスワード、クレジットカード情報などを入力させる手口です。
本物にそっくりな画面を用意されると、慣れている人でも見分けるのが難しい場合があります。また、盗まれたパスワードが複数のサービスで使い回されていると、被害が広がるおそれがあります。
なぜ日本企業はサイバー攻撃を受けるのか
サイバー攻撃が成立する理由は、企業のセキュリティ対策が弱いからという単純な話ではありません。企業は多くのシステムを利用し、顧客や取引先とデータをやり取りしています。すべてのシステムを常に安全な状態に保つことは簡単ではありません。
1. ソフトウェアの脆弱性が狙われる
ソフトウェアの脆弱性とは、プログラムの設計や実装などに存在する、セキュリティ上の弱点です。
脆弱性が見つかると、開発元が修正プログラムを公開することがあります。しかし、企業では業務への影響や古いシステムとの互換性を確認する必要があり、すぐに更新できない場合もあります。
攻撃者は、こうした弱点を探し、侵入できるシステムがないかを調べます。JPCERT/CCが2026年10月に公表した注意喚起でも、既知の脆弱性を探索する攻撃などが取り上げられています。
最新の攻撃技術だけでなく、すでに知られている弱点を放置しないことも重要です。
2. IDやパスワードなどの認証情報が悪用される
企業のシステムに侵入するために、必ずしも高度なプログラムが必要とは限りません。
例えば、複数のサービスで同じパスワードを使っていると、あるサービスから流出した情報を使って、別のサービスへのログインを試みられる可能性があります。フィッシングで盗まれた認証情報や、適切に管理されていないAPIキーなどが悪用される場合もあります。
APIとは、異なるソフトウェアやサービスが情報をやり取りするための仕組みです。便利な一方、アクセス制御や権限管理が適切でなければ、不正な操作につながる可能性があります。
多要素認証の導入や、アカウントごとの権限管理、認証情報の適切な保管が重要になります。
3. 企業のシステムが複雑につながっている
現在の企業は、自社のシステムだけで業務を完結させているわけではありません。クラウドサービス、決済サービス、物流システム、顧客管理システムなど、さまざまな外部サービスと連携しています。
こうした仕組みは業務の効率化に役立ちますが、接続先のシステムに問題が起きると、自社の業務にも影響が及ぶ可能性があります。
取引先や委託先を経由して被害が広がる攻撃は、サプライチェーン攻撃と呼ばれます。外部サービスを利用すること自体が危険なのではなく、利用するサービスの安全性やアクセス権限を適切に管理することが大切です。
4. 攻撃者にとって金銭を得る手段になっている
サイバー攻撃には、身代金の要求や盗み出した情報を公開すると脅す行為など、金銭を得ることを目的としたものがあります。
攻撃者が狙うのは大企業だけではありません。中小企業でも、セキュリティ担当者が限られていたり、システムの更新や監視が十分に行き届かなかったりする場合があります。
ただし、企業の規模だけで攻撃されやすさが決まるわけではありません。外部からアクセスできるシステムの状態や、認証情報の管理、脆弱性への対応など、複数の条件が関係します。
AIの進化でサイバー攻撃はどう変わるのか

生成AIは、文章の作成やプログラムの生成、情報の整理などを支援する技術です。仕事や学習を効率化できる一方、悪用された場合には、サイバー攻撃の一部を効率化する可能性があります。
ただし、AIが登場したことで、すべてのサイバー攻撃が急に高度化したわけではありません。従来からある脆弱性の悪用やパスワードの使い回しなども、引き続き重要なリスクです。
AIによって「日本語の壁」が低くなっている
生成AIの普及によって、サイバー攻撃に使われる文章を作成するハードルも下がっています。
以前は、日本語に不慣れな攻撃者が日本人や日本企業を狙う場合、不自然な翻訳や誤字、違和感のある言い回しが、詐欺メールを見分ける手掛かりになることがありました。
しかし、生成AIを活用すれば、自然な日本語の文章を作成したり、相手や状況に合わせて表現を調整したりすることが容易になります。金融機関や宅配業者、オンラインサービスなどを装い、アカウントの確認や支払い手続きを求めるフィッシングメールも、自然な文章で作成される可能性があります。
つまり、攻撃者自身が日本語を流暢に使えなくても、AIによって日本語の文章を作るハードルを下げられるのです。
そのため、詐欺メールを見分ける際に、文章が不自然かどうかだけを判断材料にするのは危険です。送信元のメールアドレスやリンク先のURLを確認し、不審な連絡を受けた場合は、メール内のリンクではなく、公式サイトや正規の窓口から事実を確かめましょう。
攻撃の調査やプログラム作成が効率化される可能性
生成AIは、プログラムの作成や修正、技術情報の整理などにも利用できます。こうした能力が悪用されれば、攻撃者が情報を調べたり、攻撃に使うコードを作成・修正したりする作業の一部を効率化する可能性があります。
ただし、AIが出力したプログラムが必ず動作するわけではありません。実際の攻撃には、対象システムの理解や実行環境、アクセス権限など、さまざまな条件が関係します。
また、AIの利用が確認されていない事件まで、AIによる攻撃と決めつけることはできません。技術的に可能なことと、個別の事件で確認された事実は分けて考える必要があります。
AIはサイバー攻撃を防ぐためにも使われる
AIは攻撃者だけが利用する技術ではありません。防御側でも、大量のログや通信データを分析し、通常とは異なるアクセスや不審な挙動を検出するために活用されています。
例えば、普段とは異なる時間帯に大量のログインが発生した場合や、短時間に不自然なアクセスが繰り返された場合に、調査が必要な兆候として検出できる可能性があります。
ただし、AIによる検知にも限界があります。正常な通信を不審と判断する誤検知や、攻撃を見逃す可能性があるため、システムの設定や運用、専門家による確認が必要です。
AIを導入すれば自動的に安全になるわけではありません。技術を適切に使い、検知した問題に対応できる体制を整えることが重要です。
サイバー攻撃による被害は私たちの生活にも広がる
企業への攻撃は、企業の中だけで完結するとは限りません。私たちは、通販、銀行、通信、予約、学校の手続きなど、さまざまなサービスを日常的に利用しています。そのサービスを提供する企業が被害を受けると、個人にも影響が及ぶ可能性があります。
個人情報が悪用される可能性
企業から氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどが漏えいすると、詐欺メールや不審な電話に悪用される可能性があります。複数の情報が組み合わされることで、実在する企業を装った信じやすい連絡が作られる場合もあります。
ただし、情報が漏えいしたからといって、必ず金銭被害が発生するわけではありません。漏えいした情報の種類や、認証情報が含まれているかどうかなどによって、想定されるリスクは異なります。
サービス提供企業から情報漏えいの連絡を受けた場合は、対象となる情報や推奨される対応を確認しましょう。
サービス停止が仕事や買い物に影響する
企業のシステムが停止すると、商品の注文、出荷、決済、顧客対応などに支障が出る場合があります。オンラインサービスにログインできなくなり、必要な手続きを進められないことも考えられます。
現代の社会は、多くの情報システムに支えられています。便利なサービスが増えるほど、システムの安全性に加え、障害が起きたときに復旧できる仕組みも重要になります。
学校や教育機関も無関係ではない
学校も、学生や保護者の情報、教職員のアカウント、学習管理システムなど、多くの情報を扱っています。外部サービスを利用している場合には、委託先やサービス提供事業者で発生した問題が、学校の業務に影響する可能性もあります。
そのため、組織の規模や業種にかかわらず、アカウント管理やソフトウェア更新、バックアップ、職員への情報セキュリティ教育などが重要です。
個人と企業ができるサイバー攻撃対策
サイバー攻撃を完全に防ぐことは簡単ではありません。しかし、基本的な対策を積み重ねることで、侵入や被害のリスクを下げられます。
個人ができる5つの対策
- パスワードを使い回さず、サービスごとに異なるものを設定する。
- 重要なアカウントでは、多要素認証を利用する。
- OS、ブラウザ、アプリを最新の状態に保つ。
- メールやSMSのリンクから安易にログインせず、公式アプリやブックマークからアクセスする。
- 不審なログイン通知やパスワード変更通知が届いた場合は、公式サイトからアカウントの状態を確認する。
特に注意したいのは、相手が自分の名前や住所を知っていても、すぐに信用しないことです。情報漏えいによって知られた情報を使い、実在する企業を装う連絡が届く可能性もあります。
銀行やサービスの担当者を名乗る相手から、パスワードや認証コードを聞かれても、安易に伝えてはいけません。
企業に求められる対策
企業では、個人の注意だけでなく、システム全体を管理する対策が必要です。
- 外部に公開しているシステムやアプリケーションを把握し、脆弱性を修正する。
- アカウントやAPIに必要最小限の権限を設定し、多要素認証などを導入する。
- ログや通信を監視し、不審なアクセスを早期に発見できるようにする。
- バックアップを適切に保管し、実際に復旧できるか定期的に確認する。
- 被害が起きたときの連絡先、システムの隔離、調査、復旧の手順をあらかじめ決めておく。
- 取引先や外部サービスのセキュリティ状況を確認し、委託先を含めたリスク管理を行う。
IPAやJPCERT/CCも、外部公開システムの点検やアクセスログの確認、認証・アクセス制御の適切な設定などを呼びかけています。
重要なのは、対策を一度実施して終わりにしないことです。システムや攻撃手法は変化するため、継続的な点検と改善が欠かせません。
AI時代のサイバーセキュリティはどうなるのか

今後、AIはサイバーセキュリティの分野でも重要な技術になっていくと考えられます。攻撃者はAIを使って作業を効率化する可能性があり、防御側もAIを活用して不審な挙動を検知したり、大量の情報を分析したりできます。
そのため、「AIが普及すればサイバー攻撃を防げなくなる」と一方的に考えるのも、「AIがあればすべての攻撃を防げる」と考えるのも適切ではありません。AIの性能だけでなく、システムの設計、アクセス権限、運用体制、異常を発見した後の対応などが、実際の安全性を左右します。
セキュリティを支える人の役割
サイバー攻撃への対策では、プログラミングやネットワーク、データ分析などの技術が役立ちます。一方で、どの情報を守るべきかを判断し、リスクの優先順位を決め、問題が起きた際に関係者と連携することも必要です。
AIが分析を支援できても、結果をどう解釈し、どのような対応を取るかという判断が重要になります。
サイバーセキュリティエンジニアやセキュリティアナリストなどの仕事では、技術的な知識に加え、問題を発見して解決する力も求められます。AI・ITの技術は、便利なシステムを開発するだけでなく、社会を支えるシステムを安全に運用するためにも役立つのです。
サイバー攻撃についてよくある質問
日本企業へのサイバー攻撃は、なぜ相次いでいるのですか?
ソフトウェアの脆弱性、認証情報の悪用、システムの設定不備、外部サービスとの接続など、複数の要因が関係しています。公表された被害については、攻撃の種類や侵入経路、調査で確認された事実を区別して理解することが重要です。
AIがサイバー攻撃をしているのですか?
AIが攻撃活動の一部に利用される可能性はあります。例えば、詐欺メールの作成や技術情報の整理などを効率化できる場合があります。ただし、個別の事件でAIが使われたかどうかは別の問題です。AIの関与が確認されていない事件まで、AIによる攻撃と断定することはできません。
スマートフォンを使っているだけでも危険ですか?
スマートフォンを使うこと自体が危険というわけではありません。ただし、不審なリンクから偽サイトにアクセスしたり、認証情報を入力したりすると、アカウントを悪用される可能性があります。OSやアプリを更新し、多要素認証を利用するなど、基本的な対策を行いましょう。
個人情報が漏えいしたら、必ず被害に遭いますか?
必ず被害が発生するわけではありません。漏えいした情報の種類や、アカウント情報が含まれているかどうかなどによってリスクは異なります。サービス提供企業からの案内を確認し、必要に応じてパスワード変更や不正利用の確認などを行ってください。
AIが進化すれば、サイバーセキュリティの仕事はなくなりますか?
AIによって監視や分析などの作業が効率化される可能性はありますが、それだけでセキュリティの仕事がなくなるとはいえません。リスクの判断、システムの設計、インシデント対応など、人による判断や対応が重要な業務もあります。AIの活用を前提に、必要なスキルが変化していくと考えられます。
まとめ:AI時代だからこそ、仕組みを理解して対策する
日本企業へのサイバー攻撃が起きる背景には、ソフトウェアの脆弱性、認証情報の悪用、管理上の不備、外部サービスとのつながりなど、複数の要因があります。
生成AIは攻撃者の作業を効率化する可能性がある一方、防御側にとっても情報分析や脅威の検知を支援する技術です。AIだけですべての問題が解決するわけではなく、適切なシステム管理と人による判断が引き続き重要になります。
私たちにできることは、ニュースを見て不安になるだけではありません。パスワードの管理や多要素認証、ソフトウェアの更新、不審な連絡の確認など、身近な対策から始められます。
サイバーセキュリティは、特別な企業だけに関係するものではありません。スマートフォンを使うことも、オンラインで買い物をすることも、学校や仕事でデータを扱うことも、情報を安全に利用する技術とつながっています。
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参考情報
本記事の執筆にあたり、以下の公的機関の情報を参考にしています。被害状況や対策情報は更新される場合があるため、最新の発表もあわせて確認してください。
- IPA(情報処理推進機構)「不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえ、速やかに実施すべき対策等について」(2026年10月9日)https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/2026/alert20261009.html
- JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」(2026年10月8日公開、10月9日更新)https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260030.html
- IPA「重要なセキュリティ情報」https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/index.html
本記事は、日本工科大学校が運営する情報発信コンテンツとして制作しています。
AI・IT・ロボット分野を中心に、学生・高校生・保護者の皆さまへ向けて、技術や業界動向、分野にまつわる身近な疑問について分かりやすく解説しています。
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